脆弱な「二審有罪確定で収監」判決

連邦最高裁判所が、二審有罪確定の段階で懲罰に服すべき司法判断をしたのはもちろんこれが初めてではなく、既に判例が出ているので、司法はそれに従って多くの政治家を収監してきた。
その判例は2016年の連邦最高裁大法廷の判断であり、その前の判断は2009年に遡るが、反対の判決が出ている。

面倒なので裏をとる確認はしないが、2009年の判断は、全ての上訴の道が尽くされてもうこれ以上裁判で争うことのできない、つまり本当の最終審で確定判決が出るまでは被告の罰の執行はできないと結論していた。

多分世界の大部分の国の司法制度には「推定無罪」「疑わしきは罰せず」の原則があって、有罪が確定されるまでは罰に服することはないのであるが、もちろんブラジル憲法もこの、”Presunção da inocência”の条文を持っていて、この原則を尊重した判決であった。

連邦最高裁判所大法廷は2016年に、今回のルラ元大統領の人身保護請求の拒否に根拠を与えることになった、「被告が二審で有罪の確定判決(それでは確定判決ではないという議論は置いといて)が出た時点で罰の執行を行なう」という規範を示した。
2016年の判決を行った連邦最高裁の11人の判事の票決は、全く同じ6対5であった。
詳しく触れないが11人の判事の顔ぶれは一部異なっているが、大部分は同じ人である。

これは黒に限りなく近い被告が、財力にまかせて弁護士に高額の報酬を払いながら裁判の引き延ばしと人身保護請求の合わせ技を図って、判決から逃げながら服役をできるだけ将来に延ばして時効到来を狙う行為を是正する意図があったのだろう。

2009年と2016/2018年の二つの異なる判決の根拠は、矛盾を含み相容れないものである。
そのため連邦最高裁の11人の判事の意見は半々に割れて一致を見ることはない。

一方は「推定無罪」「疑わしきは罰せず」の原則である。
「推定無罪」に厳格に従うと、当然最終の確定判決が出ないことには、被告は本当の犯罪人でないのだから留置されることはあっても服役することはないはずだ。
この説に従えば、最高裁では下級裁のどんな誤謬も正されるから、無実の人間の冤罪は起こらないという仮説を信ずることになる。

他方にあるのが、ブラジルに蔓延するimpunidade、つまり本来罰せられるべき犯罪人が裁判ののろさと制度の複雑さを悪用して罰せられずにいる悪弊をなくそうという意図である。
この考え方に沿うと、「推定無罪」原則を逆手に取って逃げる本当の悪人の企みを阻止して、犯罪人の逃げ切りは起きないという仮説に基づくことになる。

これで見るように似たもの二つからどちらを取るかという問題でなく、全く反対の考え方のどちらを選ぶかという問題であって、判決の勢力配分が、判事の票決が全員一致とか、9対1とか(裁判長は同点決戦でない場合には票決に加わらないと思う)で圧倒的であったのなら、後に蒸し返しは起こらないだろうが、直近2回の判決が6対5という僅差なので、近い内に誰かが文句をつけて蒸し返す余地が大きく残っている。

実際に人身保護を連発してどんな被疑者も逃してしまうことで有名なGilmar Mendes最高裁判事は、2016年には二審有罪確定で服役に票を入れたが、2018年には最終確定判決までは服役しない方に寝返っている。
反対に、Carmen Lúcia最高裁判所長官と共に2/11を占める女性判事であるRosa Weber最高裁判事は、「本心は推定無罪の原則に従いたいが、たった2年前の判断をコロコロ変えるようだと最高裁の見識が疑われて司法の信頼性(segurança judiciária)が損なわれるから、後者を尊重したい」と、2016年とは票を変えたので、Gilmar判事と入れ替わって結局投票は2018年と2016年を比較してプラマイゼロ、同じ6対5となったのである。

この非常に根拠の弱い二審有罪確定で服役という規範は、ルラ元大統領弁護団が連邦最高裁の弱点とみなして攻撃してくる可能性が極めて高いと思われて、これからも波乱は絶えないことを予感させている。

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上がりの遠いブラジルの司法

日曜日の午後、サッカーの州チャンピオンシップ決勝があって花火が上がっていた。
本題と全く関係ないが、2018年ミナス・ジェライス州チャンピオンはアトレチコ・ミネイロを2戦目で逆転したクルゼイロであった。
3日前思いがけない時間に花火が上がったことを思い出す。

2018年4月5日木曜日未明0時30分ころ、突然遠くで花火が上がった。
思い出してテレビをつけてみたら、ブラジルのルラ元大統領が「二審で有罪確定判決が出ても最終審で確定判決が出るまで逮捕されないよう」連邦最高裁判所に請求した人身保護請求について大法廷での審判が決着したのだ。

連邦最高裁判所大法廷は御老体の判事達には堪えるだろう、延々と11時間(もちろん何回か休憩はあったが)審理されて、といっても各判事は既に意見を固めていたようであるから各自の論旨を主張して、5対5だった票決は裁判長の決定票によって6対5でルラ元大統領の人身保護請求を認めなかった。
数的には危ない票決だった。

同日木曜日夕方、逮捕命令を出す担当である一審のSérgio Moro判事が早速逮捕命令を出した。
元大統領は「名誉ある役職にあった」ので、連邦警察に「自発的出頭」をするように24時間の猶予を与えた。
自発的出頭期限の金曜日夕方になっても、元大統領は現れなかった。
自分の古巣、サンパウロ大都市圏のABC地区金属労働者労働組合に籠城したとか報道したメディアもあった。
連邦警察と「出頭の方法について交渉中」とメディアは伝えた。

翌土曜日19時ころには、娑婆の最後の演説を終えた元大統領をのせた車が連邦警察に向かっている映像をテレビ中継していた。
時間の遅れはあったにせよ、元大統領は自発的に連邦警察に赴いた。

気になった点を忘れないように書き留めておく。

上がりの遠いブラジルの司法

誰かが逮捕されそうになると、特にそれが権力や金を持った人である場合に、”habeas corpus”というものが請求される。
普通ポルトガル語風にh無音のローマ字読みして、アベアス・コルプスと言われて、「人身保護令状」と訳されている。
HCと略されたりもする。
不当逮捕に対抗する正当な手段である。

これだけなら別に問題はなさそうであるが、そうではない事情がある。

貧乏人相手の仕事は門前払い、金を積まなければ仕事をしないような、いわゆる有能な弁護士が、依頼人が罪を犯したことがほぼ濃厚であっても、「依頼人の身体に危険が及びそう」とか、「依頼人は社会に害を与えないから逮捕に及ばない」とか、理由をつけて被告を逮捕させないために持ち出す武器である。

裁判所の系統が大きく分けて、司法裁判所と連邦裁判所と分かれていて、それぞれが三審となっている上に、両方が場合によって交差することがあって、「裁判を遅らせるのが得意な」弁護士にかかると訴訟は縦線で上がったり下がったり横線で隣のラインに移ったり、変幻自在である。
その他に、多分ブラジル特有の労働裁判所とか選挙裁判所(選挙管理委員会の役割)という別系統があって、これはこれで摩訶不思議な世界であるが、ここでは触れない。

上訴だけではなく、同じ段階の裁判所の判決に異議申し立てをすることが可能で、異議申し立てを意味する司法用語を見ると、異議申し立てにも種類があっていくつもの用語があるようなのだが、こんなことは我々一般の市民には複雑過ぎて理解できない。
ニュースを見ていたら、その一つである、embargo de embargos、異議申し立ての異議申し立て、名前からおかしいのであるが、これが制度上何回もできるようなのだ。
通常は理由をつけて3回位までだと言っていたが、それぞれに数ヶ月から数年かかったら、いつ終わるのか見当がつかなくなる。
次の一手が一つだけでなく、裁判の道筋の可能性が無数にあるようで、見通しがきかないのである。

見方を変えると「疑わしきは罰せず」精神を実践して、慎重な審理を行っていると言えるのだろうが、この複雑な上訴・異議申し立て制度を人身保護請求と組み合わせると、あら不思議、裁判で何年も争っている間全く収監されずに、自宅で寝起きできる。
一つの例としてあげられたのは、裕福な農場主に殺人容疑が掛けられたが、この裁判引き延ばしと人身保護請求の二本立てで、一度も(と肯定はできないが、少なくとも長期間)牢屋に入ること無く、時効が来て無罪になってしまった。

このような馬鹿げた恥ずべき「犯罪が罰せられない(impune)ブラジル」という事態を許さないために、事実審理が終わる二審まで審理が尽くされたら服役してもよいのではないか、という判例の規範が2016年に連邦最高裁判所によって出された。

実際にルラ元大統領の収賄容疑は連邦裁判所で審理されていて、現在二審である連邦地方裁判所の3人の判事の合議判決は全員一致で、一審の連邦判事一人の判決(禁錮9年6か月)より重罪とした(12年1か月)。
ルラ元大統領の弁護団は人身保護請求を別系統の司法裁判所に請求して棄却されたために、連邦最高裁判所つまり最終審に改めて人身保護請求を行ったのだが、同様に否決されたわけである。
しかし裁判の最終的な行方はわからず、選挙裁判所がルラ元大統領の被選挙権を確認したら、獄中の立候補者という想像し難い大統領候補が生まれる可能性も否定できないのである。

結局、金持ちと貧乏人は「法のもとで平等」ではないと誰もが感じている。

サンパウロ国際空港アクセス鉄道開通

大都市の空港と都心が必ずしも鉄道で結ばれているわけでないのは、特にブラジルではかなり当然の事実である。

行政区域ではサンパウロの隣にあたるグアルーリョス市にある、サンパウロのグアルーリョス国際空港(空港コードGRU)は、2018年3月末日から鉄道線の運用が始まる。
といっても最初は運転時間の限られた試運転である。
無料である試運転の乗車はできる。

概要

線名はサンパウロ大都市圏鉄道会社(CPTM)の13号翡翠(ひすい-Jade)線
全長12.2km
3駅

  1. Aeroporto-Guarulhos駅=空港駅
    歩行者通路を渡ってから、3つあるターミナル間を連絡する無料バスに乗り換えと書いてあるのだが、どれだけ歩かされるのかは不明である。
    駅にカートが置いてあるのかも不明。
  2. Guarulhos-Cecap駅
  3. Engenheiro Goulart駅
    CPTM 12号サファイア(Safira)線に接続。

2018年4月

上記3駅区間を運行。
土曜・日曜10時から15時まで30分毎、所要時間15分、無料。
都心からEngenheiro Goulart駅までは4レアル。

2018年5月

上記3駅区間を運行。
全日10時から15時まで、無料。

2018年6月

全日4時から24時まで。
Connect(なぜ英語なのか?外国人を意識しているのだろう)運用開始
12号線ブラス(Brás)駅から空港駅まで直通各駅停車35分、4レアル。
路線図をみると、12号線はブラス駅の他に、タトゥアペ(Tatuapé)駅でメトロ3号赤線に乗り換えできるようである。
どこで乗り換えたら乗り換え時間が短いとかの詳しい情報は、そのうちにサンパウロ住民が知らせてくれるだろう。
CPTM 13号線が他の路線と一緒の料金体系なら、都心まで4レアル一貫で行けるはずであるが不明。

2018年7月

全日4時から24時まで。
Airport-Express(これまた英語)運用開始
ルス(Luz)駅から空港駅まで直通35分、たぶん15分毎、4レアルより高いだろうが運賃未定。
ルス駅ではCPTM 7号ルビー(Rubi)線、CPTM 11号珊瑚(Coral)線、メトロ1号青線、メトロ4号黄線に乗り換えできる。

昨日までの都心から空港まで最安運賃と比較してみる。

これまで

セー駅-タトゥアペ駅 メトロ3号赤線 R$ 4.00
タトゥアペ駅バスターミナル-空港前 EMTUバス257番 R$ 6.15
合計 R$ 10.15

これから

13号線がCPTMの他の路線と同じ料金体系と仮定して、メトロとCPTMの無料乗り換えを使えば、1回料金でよいはずである。
セー駅-ブラス駅 メトロ3号赤線 無料乗り換え
ブラス駅-空港駅 CPTM 12・13号線(直通・乗り換え)
合計 R$ 4.00

2000年の最初の公約では2005年開通予定だったものが無理で、2007年の州新政府は2010年までできると約束した。
2009年になると、2010年では無理だ、2014年のワールドカップまでには間に合わせると言い換えた。
民間部門が引き受けたがらずに公約は霧散した。
2015年州政府は2017年末までという目標を出していたが、2017年9月になって完成予定を2018年3月に延ばされたものが、最終日に滑り込んだ格好である。

Trem que leva ao Aeroporto de Guarulhos começa a circular neste sábado
を全面的に参考にした。
記事に写真と路線図がある。

リオ宛小包に暴力割増料金

2018/03/02に1レアル=約33円

現代ポルトガル語辞典(白水社)から:
a intervenção 連邦政府の州政への干渉
o interventor [非常事態に大統領が州に派遣する]執政官、臨時行政官

1年半前の2016年8月に、美しい、魅惑の、すばらしいその他ありとあらゆる形容詞で賞賛される、この有名な観光地でオリンピックが開かれたことが、奇跡としか思えない。

先月(2月)カーニバルが暴力にまみれて終わった直後に、リオデジャネイロの治安が急激に悪化したことを理由に、連邦政府がリオデジャネイロ州政府の治安に介入を決定した。

“O interventor federal na segurança do Rio, general Walter Souza Braga Netto”
新聞の記事に書かれるように、連邦政府が州政に介入するのは保安部門だけであるが、執政官の肩書名称からわかるように、ブラジル陸軍東部方面司令官を兼任する将官であり、インタビューには迷彩服で出てくるから異様ではある。

この介入決定は戒厳令などには至らないがその一歩手前であって、これが発効している間は、改憲は不可能であると憲法に定められる。
そこで4年に1度の大統領・上下院議員・州知事・州議員の選挙が今年後半と近づいてきて、改憲を必要とする不人気な社会保障改革を無理と見た連邦政府が、断念する言い訳にリオの治安悪化を、人気回復を兼ねて一石二鳥を見込んで当てつけたもので、十分に政治目的と言えるのだが、ここでは問題にしないでおこう。

表題の話である。
2018年3月からブラジル郵便(Correios)は、リオデジャネイロ市をあて先とする小包に3レアルの特別割増料金をかけることにした。
理由として小包、郵便配達人、配達車それから郵便局自体を強盗や略奪から守るコストが大きいという。
今までも危険地区に住んでいると、配達人の身の危険から郵便物を配達してくれず遠くの局留めになっているが、これからはカリオカ(リオ住人)にとっては、インターネットでの買い物が高くなって余計に不便になる。
しかしリオデジャネイロ市の治安が改善したら、この「暴力非常割増料金」は廃止されるだろうと郵便局はこのページで説明している。
郵便局自体は、「暴力非常割増料金」とは言わないで、「非常時の取立て」という表現を使っている。

昨日のニュースで、リオで一か所での歴代最大?のコカイン発見が報道された。
重量は1.2トンという報道もあるが1.5トンで、いくつもの旅行バッグに入れられてコンテナ内の建材の奥に隠されていた。
真空パックされていて、二重包装の間には正確にどれか忘れたけれどオレガノのような香辛料を入れて、麻薬探知犬の嗅覚をごまかそうとしていた。
コカインのルートは、生産地コロンビアやボリビアから、長大な国境を越えてブラジルに陸路で入り、リオデジャネイロまで運ばれてからは海路か空路で欧州に運ばれるのだという。
くだんのコカイン入りコンテナはベルギー・アントワープへ運ばれる予定だった。
この1.5トンのコカインは濃縮されているのだろうか、消費者向け製品にすると10トンになって、2億レアルの価値を持つそうである。

一方でこんなニュースもあった。

路上で検問を行っていたリオデジャネイロ州警察の警官二人が、不審な運転手の不審な車を調べたら現金180万レアルが積まれていた。
不動産を売った代金だと言うのだが、どこのどんな不動産か説明できなかった運転手は、見逃してもらうために80万レアルを差し出したが、二人の警官は贈賄その他の容疑で早速逮捕した。
見逃し料としては桁違いであると思うが、こういう人達がいるからこそブラジルが住むところとして魅力を失わない支えになっているのだろう。

連邦政府のリオデジャネイロ州治安介入は今年いっぱい継続するそうだが、リオ宛て小包の暴力割増料金が廃止されるのはいつのことになるだろうか。

なお日本郵便のページによると国際小包(ブラジル全国が第4地帯)、EMS(ブラジル全国が第3地帯)には、この暴力割増料金の適用はない。

2018年5月5日追加

郵便局のリンクが切れているが、調べてみたら「暴力割増料金」は、実施したその週に裁判所が差し止めて、結局今は実施されていない。

黄熱ワクチン、日伯91倍価格疑惑

以前このブログで、日本とブラジルではどうして黄熱ワクチンの価格に大差があるのか疑問をあげた。
東京検疫所によると黄熱ワクチン接種は国際接種証明書発行込みで11,180円、一方ブラジルでは公的機関で行えば全て無料である。
そのため日本とブラジルでは同じ黄熱ワクチンと言っても品質や効果が異なるのではないかと疑ったりした。
その疑問に少し答えてくれる情報を見つけたのでここに書いておこう。

安いため黄熱ワクチンの在庫はぎりぎり
Barata, vacina de febre amarela tem estoques no limite

昨今の人気商品、品薄商品と言っても良いかもしれない。
黄熱ワクチンである。

しかしこの生産は儲かる事業ではない。
主な需要地は、あまり金がありそうもないアフリカと南アメリカの国々であり、最終製品価格は低価格である。
金のある先進国では、黄熱の危険国へ旅行する人しかこのワクチンを必要とせず、数量が捌けない。
一方生産には、近代的施設と複雑な過程を必要とする、つまりたやすくできる活動ではない。

そのような理由で、世界保健機関(WHO)が認証するワクチン生産者は、全世界で4つしかない。

最大のものがリオデジャネイロにあり、1937年から活動している。
今年の予定生産量は4830万人分であり、単価はR$3.50、3レアル50センターボである。

その他の3つの生産者とは、フランスのSanofi Pasteur、セネガルのInstitut Pasteur、ロシアのChumakov連邦センターである。

生産技術というか原理は新しくない。
1930年に完成して、1951年南アフリカのMax Theiler氏にノーベル賞をもたらした。

原材料は鶏卵であるが、そのあたりのスーパーでパック入り卵を買ってきてもだめのようだ。
黄熱ウィルスだけを増殖させてその他の微生物が混じってはならないから、最高の衛生状態の養鶏場で、無菌状態を保つよう念入りに生産された卵が使用される。
そして1個の鶏卵から200人分の黄熱ワクチンが作られる。

ワクチン製造の簡単なプロセスは理解できた。
そしてブラジルは無料だから、有効期限が切れそうになったり効果が弱くなったような二級品ワクチンを使わされている疑惑も解けて、逆にブラジルでは世界で一番流通量の多い銘柄のワクチンを使っていることに安心した。

価格差であるが、ブラジルでは無料で黄熱の予防注射を受けることができるけれど、ゼロは何倍してもゼロだから比較にならない。
だから記事にあったブラジルのワクチン原価を持ってくる。
ブラジルでR$3.50といったら、1レアル35円として123円となるが、どうやって日本で11,180円と、倍率を計算すると91倍の価格になるのだろうか。

死んだら損だから、国民は自費で接種しろなどと人任せなことを言っていたら、金のない連中が軒並み黄熱にやられてしまうだろうから、政府の率先で国民に行き渡らせるために、大量にワクチンが必要な黄熱蔓延国では、政策的に安く入手する必要がある。
多分、多大な需要がそれを可能にするだろう。

反対に、海外旅行者のごく一部にしか需要のない先進国では受益者負担の考え方で、先進国特別小口割増しワクチン価格の上に、さらに検疫所の人件費や維持費などをごっそりのせて、ついでに高率の税金をかけると、これだけの価格差になるのだろうと勝手に推測するしかない。

黄熱が町に到来

州保健局によると、昨年2017年11月から2018年1月までの3ヶ月間、ミナス・ジェライス州で黄熱のため36人が死亡した。
罹患者の死亡率は40%を超える。
そしてその全員が黄熱予防接種を受けていなかった。

患者は州都ベロ・オリゾンテ大都市圏に集中しているが、州西方のトリアングロ・ミネイロ地方に位置するわが町の都心部近辺で、2ヶ月前に発見された野生の猿の死体を検査した結果、黄熱によるものであったことが昨日発表された。
町の人口の90%が予防接種済みだと言うので、10%にあたる約6万人は未接種である。
ブラジル保健省は、人口の95%が接種済みとなることを目標としている。

市衛生当局は、黄熱にかかった野生猿の死体が見つかったといっても、人への感染は起きておらずむやみに心配することはないと、パニック状態になることを戒める。
しかし市衛生当局は、予防接種方針を変更して、9歳以上60歳までの未接種者に全て接種を促している。
これまで60歳以上の人には、医者にかかって接種可能診断書を提出するよう要求してきたが、これに代わり当日接種所での問診だけに簡略化して、この年齢帯の未接種者にも接種を勧めている。
市内70か所の接種所に加えて、人が集中するバスターミナルと公園の2か所で臨時接種所を設けて対策にあたる。

デング熱・チクングニア熱・ジカ熱・黄熱の媒介者ネッタイシマカ対策のため、水たまり撲滅の訪問点検指導は、例年通り行われている。

未接種の6万人が慌てふためき保健所に行列を作る光景は、今のところ見られていない。
犠牲といえば、気の毒な野生の猿2頭が、病気媒介は猿によると勘違いした心無い住民の石つぶてで殺されてしまった。
媒介者は3種類の蚊である。

一度の予防接種で一生心配なしの黄熱

Brazil yellow fever: WHO warns travellers to Sao Paulo
17 January 2018

Updates on yellow fever vaccination recommendations for international travelers related to the current situation in Brazil
Information for international travellers
16 January 2018

カーニバルも近づいてきて、サンパウロやリオを旅行する予定の人もいると思うが、上のBBCの記事及び世界保健機関の発表では、新たにサンパウロ全州に対して、外国の旅行者は黄熱の予防接種をすませておくことを推奨している。

WHOサイトによると2017/07/01から2018/01/08の期間で、黄熱で死亡した野生猿が確認された州は、マット・グロッソ・ド・スル、ミナス・ジェライス、リオ・デ・ジャネイロ、サン・パウロで、さらに17州で死亡猿の病原確認作業中である。
同期間で確認済みの黄熱患者数と死亡者数は、ミナス・ジェライス(1-1)、リオ・デ・ジャネイロ(1-0)、サン・パウロ(8-2)、連邦区(1-1)、合計(11-4)である。
現在1月20日にはもっと増えている。

最も有効な対策は予防接種であるのだが、黄熱の予防接種は接種後10日経たないと有効にならず、それ以前の期間は証明書で有効とされないことに注意してもらいたい。

サンパウロ州知事は「サンパウロ州全体を汚染地域として一括りにするのは大げさ過ぎる」と文句を言っていた。
確かに、黄熱が発生しているのは農村森林地帯だけで、そこに実際に行ったり住んでいる者しか感染発病していない。
感染者-ネッタイシマカ-未感染者、という感染経路を持つ都市型黄熱は、1940年代からブラジルで確認されていない。

しかし、外国人にしてみれば、サンパウロ州内のどこが危険でどこが安全かなど説明されても、地理がわからないのは当然である。
そのためにWHOは、サンパウロ州全体を危険地域として注意を促している。
ブラジル政府は国内向けに、サンパウロ州内を細分した地図を作成して、それを使って防疫施策を進めている。

州知事によるといささか大げさと評価されるWHOの発表は、実際に実害をサンパウロ市周辺の住民に及ぼしている。
ブラジル全国の保健所では無料で黄熱の予防注射を接種してくれるのだが、サンパウロ市内では行列待ちが数時間に達しているので、それを嫌う非危険地域の住民が、重点的に住民に予防接種を行っている危険地域までわざわざ出かけていって、本当に注射が必要な現地住民に行き渡りにくいという問題を引き起こしているため、政府は危険地帯に行くなと、広報に躍起である。

本ブログ内黄熱が吠えるで見るように、黄熱の予防接種は通常の服用量ならば99%の確率で一生有効である。
しかし非常事態であるので、サンパウロ州の54都市では、今月末からフラシオナダ(dose fracionada)といって、通常の五分の一量の接種を開始する。

多分現地で勝手に服用量を増加する行為を防止するためと、注射の作業を迅速に進めるためだろう、わざわざ0.1mlしか液が入らず、押し込むとピストンがロックされて二度と使えないという特殊な細い注射器をドイツから二百万レアルかけて緊急輸入して対処にあたっている。
通常の五分の一服用であるが、効果は一生有効であるとの保証はされず、8年としている。
そして、重要なことだが、ブラジル在住の者が黄熱予防接種証明書を必須とする国へ旅行する場合には、フラシオナダではだめで、全量接種でなければ証明書が出せないので、フラシオナダ接種地域・時期であっても接種間2ヶ月の禁止期間を考慮して最初から特別に申し出て全量接種を受ける必要がある。

ついでに国立保健監視庁(ANVISA)で調べた、ブラジルでの
黄熱予防接種から証明書(Certificado Internacional de Vacinação ou Profilaxia)発行までの手続き
を書いておこう。
無料である(公的保健所での接種は無料であり、少なくともANVISAのサイトには証明書発行手数料についての記述はない)。

  1. 国内用予防注射カードと念のために身分証明書を持参して、公的な保健所で黄熱予防接種を受けてカードに記載してもらう。カードを持っていない場合にはその場で作成してもらえる。フラシオナダ地域・時期だったら外国へ行くから全量接種が必要であることを説明する。
  2. このページで仮登録を行なう。予約が必要な場所だったら同時に行う。
  3. 本人がこのリストにある証明書発行所へ出頭する必要がある。
  4. 上記国内予防注射カードと写真入り身分証明書を提示して証明書を発行してもらう。

このリストで私立(Privado)と書かれている接種所は、そこで接種した場合のみに証明書を発行してもらえる。私費接種はR$150くらいするらしい。

2月17日までにサンパウロ州全体で650万人、そのうちサンパウロ市は250万人に接種する必要があるから、なかなか大変だと思う。