デング熱とソファと女性の関連性

今ブラジルでデング熱が流行している。
epidemia、つまりエピデミック(en. epidemic、po. epidêmico)であると宣言される地域が多い。
人口10万人あたりデング熱患者300人というのがその目安らしい。
2015年になってブラジル全国で75万人が罹病した。
昨年同期比+234%という。

デング熱には次の2つの重症ケースがあるという。

水分補給が追いつかないと体内水分が減少する。
その結果血圧が下がると危ない。

骨髄を冒すので血小板製造力が落ちる。
血小板が減少すると出血しやすくなる。
鼻血や歯茎の出血がみられる。
内臓から出血して重症の場合死に至るのが、出血性デング熱(Dengue hemorrágica)といわれる。

デング熱対策に一日22杯の水、という記事を書いたのであるが、デング熱上がりの友人に聞いたところ、そんなに簡単ではないらしい。
デング熱は急に症状が来る。
デング熱だけでなく風邪やインフルエンザなどで、人生一回も高熱になったことのない人はいないと思うのだが、高熱の習いとして、毛布を何枚かぶっても収まらないガクガクの震えが来たのちに、浴びるような汗をかくという繰り返しだ。
身体中の筋肉が痛いというから、全身筋肉痛という感じなのだろうか、とにかくだるく痛く何もできず、歩くのも立つのも苦しく、体がソファに張り付いてしまうらしい。
デング熱の症状に眼の奥の痛みと言われるが、彼の場合は片目だけ痛くなったという。

ソファに張り付いていたら、奥さんには、
「あんたそんな熱くらいで仕事休むの?皆勤賞がもらえなくなるでしょう」
と言われたので、彼は苦々しく、というか痛々しく答えた。
「冗談じゃない、この痛さは人生かって無かった辛さなんだ、お前病院へ連れて行ってくれないか、俺死にそうだ」

病院には同じような症状を訴える患者がすでに数人いた。
デング熱の疑いがあるとすぐに検査が行われる。
結果は4時間後に出るというので、いったん家に帰ったらしい。
陽性となったら市役所の動物課が、デング熱ウィルスを媒介するネッタイシマカの退治のため、家周辺に殺虫剤を撒いて近所の住民に注意を促す。
彼の場合には隣人が先にデング熱に罹ったので、既に蚊によってウイスルをうつされていたようである。

何も食べたくない。
水を飲めと言われても無理、喉を通らない。
オレンジやカジュー(カシューナッツの果実)のジュースと、スープの液体部分が口に入れることのできた全てだった。
点滴を一日2リットル受けた。

結局10日ほど仕事はできず、家で休養するしかなかったが、二度めにかかると重症の出血性デング熱に移行し易いと言われるので、再感染を心配している。

「現代ポルトガル語辞典」でdengueをひくと、
男性名詞 《ブラジル用法》①色っぽさ、色気、しな。②[子供が]むずかること。
女性名詞 [医学]デング熱。
と書いてある。

デング熱が女性名詞なのは、英語のfeverにあたるfebre(熱病)が女性名詞だから頷けるのだが、色っぽさや「しな」が、デング熱と関連があるのだろうか。
デンゴーザ(形容詞形・名詞形、つまり~な・~な人)と呼ばれる人は、色っぽい動作・様子をみせて男の気を引こうとする女性のことだ。
ということは、しなを作る女性とデング熱は同じようなものである、「誰でも一回はかかる、二回目は重い、運が悪いと命を失うこともある」と乱暴に解釈した。
しかし妻にはデンゴーザとデング熱とは全く関係ない、デンゴーザは女性、デンゲは病気、と言下に断言された。
こういった比喩はあまり好きでないらしい。

Dengosa という曲がある。
熱い愛情を求める女性である。
詩ではdengue(=dengo)の関連語を次々に連呼している。
dengosa, dengoso
denguinho
dengo
Elis Reginaが歌う軽やかなボサノバは、デング熱のどろんとした体の重苦しさと全く対極にある。

5月になって涼しい日も増えてきたから蚊も減って、デング熱も沈静化してきている。
これからはインフルエンザが心配になる。

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感謝祭の赤旗は左翼ではない、精霊だ

五旬祭、ペンテコステ po. Pentecostes

日本で赤旗と言ったら共産党、ブラジルにも共産党はある。
一つだけでなく二つもある。

古い方はPartido Comunista Brasileiroといい、略称はPCB、創立は1922年である。
新しい方はPartido Comunista do Brasil、その歴史を見るとPCBから1962年に分かれてできたものである。
そのために名称は’Brasileiro’と似て異なる’do Brasil’を使っている。
略称はPCdoBペーセードベーと呼ばれる。
内部分裂は左翼のお家芸なのだろう。

泡沫候補とも言うが、独自候補を立てて玉砕するガチガチの古いPCBと比べて、新生PCdoBはより柔軟に連立を組む、まあ日和ってるのかも知れないが、現在の連邦政府の構成党であり、ワールドカップ時のスポーツ相で有名になり現在科学技術相であるAldo Rebelo氏はPCdoBに属する。
2014年の総選挙では党から初めての州知事、Flávio Dinoマラニョン(Maranhão)州知事を選出しているが、連邦政権党PTの仇敵PSDBの副知事とコンビを組んでいるのでわけがわからない。
現実主義の結果なのだろう。

ブラジル連邦政府と言ったら、共和国大統領を選出している労働者党Partido dos Trabalhadoresであるが、やはり赤旗である。

昨日テレビのニュースで見たデモは、参加者が赤い旗を掲げ赤いスカーフをつけている。
最近汚職、経済不振、綻びを繕うための増税緊縮政策で人気の落ちている労働者党政権を激励する官製デモか。
よく見るとデモの中に、野菜を満載した何台もの旧式の2頭立て牛車を、きれいな飾りをつけた牛たちが引いている。

暦は5月の下旬になったが、北半球の暦にあわせ6ヶ月ずらすと11月下旬になる。
カナダでは10月第2月曜日、アメリカ合衆国では11月第4木曜日が感謝祭になっている。
こちらはいま秋、ちょうど感謝祭の季節に重なる。

デモと早とちりしたのは、実はサンパウロ大都市圏の東方で、日系人も多く住むモジ・ダス・クルゼス(Mogi das Cruzes)の収穫を祝う行列だったのだ。
4世紀前から、というとブラジルという国が成立(1822年独立宣言)するずっと以前から続いている収穫感謝のパレードは、キリスト教行事ペンテコステの行列という。

そう、今日日曜日は五旬祭、ペンテコステ(Pentecostes)の日だ。
イエス・キリスト復活の49日後の日曜日については、聖書の使徒行伝あるいは使徒言行録に書いてある。

印象的なところを一部だけ引用する。
また、舌のようなものが、炎のように分れて現れ、ひとりびとりの上にとどまった。(使徒言行録2-3)
すると、一同は聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、いろいろの他国の言葉で語り出した。(2-4)

ニュースで言っていたのを聞いて、なるほどと思うことがあった。
「この日に精霊が降りてきて、意気地なしだった使徒たちが急に強くなった」と言った。
カトリック国であるブラジルのテレビが何気なく教えてくれた。

信心があるわけではない私が聖書を読んで不思議に思っていたのが、どうしてイエスの弟子たちは、何よりも大切な師が捕まり磔にされるときに散り散りに逃げ去ったのか。
情けないぞ、と思うだが、だからこそペドロ(ペテロ)の三度の否認とかのストーリーが語られ、涙なしに聞けない名作マタイ受難曲やヨハネ受難曲が生まれたともいえる。

冷静に考えてみれば、弟子たちがイエスの側から離れられなくて一網打尽で捕まって一緒に処刑されてしまったり、師を一人だけ引き渡すのは無念だとローマ兵と戦って全員玉砕したりしたら、話はそこで終わってしまって聖書が書かれることはなく、現在の世界と全く異なるバラレルワールドになってしまっただろう。

イエスの側にいたから強い信仰をもてるのではない。
そうだったらイエスなき時代に生きるものたちは誰も信仰をもてないではないか。
そうではない、イエスの側にいた時は弱虫だった弟子たちが、精霊の導きによって強い信仰を持てるようになった。
イエスなき世のわれわれにもこれならできそうだ、と思わせてくれるのが大切なのだ。
それが神の思し召しなのだ。

ペンテコステのできごとは教会の始まりと言われている。
もちろん赤い旗や赤いスカーフは、共産党でも労働者党でもなくて、一人ひとりの上に降りてきた、「舌のような炎のような精霊」をあらわしているのだ。

使徒言行録2-4に描かれたことが日本で起きたら、神社は語学学習成就のお守りや絵馬をきっと作るだろう。

不運なポケット

昨日のテレビで気になるニュースがあった。
サンパウロの繁華街、衣服などが安い3月25日通り(rua 25 de março)と言ったと思う、そこで強盗団、というかひったくり団が出没している。
それだけなら大して珍しくもないが、東洋人(orientais)が被害者になっていると言ったから、これは大変だ。

このニュースで指摘したことはかなり信憑性がありそうだ。
なぜ東洋人が狙われるか。
東洋人はポケットに金を入れて歩くことが多い、と言うのだ。

だったら、西洋人というか普通のブラジル人はポケットに金を入れないのだろうか?
手提げカバンやショルダーバッグを持つのだろうか。
バックパックを背負ったり、危ないところでは腹の前に抱えるのだろうか。
そもそも現金をあまり持ち歩くことはないのだろうか。

私はよくポシェッチ(pochete)を使う。
ダサくてもこいつを腹の前につけて、しかもシャツは外出しだからシャツの下に隠す。
なおポルトガル語でいうポシェッチとは、日本語のポシェットとは異なるものを指す。

手口はこうだ。
ひったくり団は複数、テレビカメラにとらえられた画像では4人いた。
3人が羽交い締め、手足を押さえつけてから残りの一人がポケットに入れてある札入れを抜き取るという、武器は使わないもののかなり荒っぽいやり方で、犯行時間は10秒もかからない。

一人で5万レアルの被害を被った人がいると言った。
ちょっと待った。
ブラジルの最高額紙幣は100レアル札である。
5万レアルと言ったら500枚でないか。
100枚を紙帯でくくった束の厚さがどのくらいかは知らない。
1センチとしたら、5万レアルは5cmの厚さになる。
もちろん大きさは100レアル札の大きさだ。
そんなかさばる現金の束をポケットに入れて一人で歩くような、不用心な者がいるのだろうか。

その元になった記事を探してみたが、読んでみると少し違う。

テレビカメラに捉えられた4人だけでなく少なくとも15人いるという。
東洋人、と言われていたのは、記事内では「中国人の商人」と、かなり限定している。
強奪されるものは現金、携帯電話、宝飾品とされていて、ポケットの中の現金などとは書いていない。
といったようにテレビで聞いた記事と、書かれた記事とは多少異なるのだが、まあいい。

事件が起きたのはサンパウロであるが、来年リオでオリンピックもあることだし、用心に越したことはない。
「東洋人はポケットに金を入れて歩く」というような風説が広まると、ポケットに何も入れてなくても、襲われかねないからである。

「ポケットの中には札束が一杯」にしておくと、増えるどころかどつかれて一文無しになるという、「不運なポケット」となってしまうという惨めなオチである。