サッカーと抗議デモとどちらが大事?

サンパウロ市のバス代値上げ反対のデモと警官隊との衝突を発端とした抗議活動(protesto)は、燎火のように全国に広がり、抗議デモの舞台になった各都市で公共交通料金の値下げが発表された後も、今のところ収まるところを知らない。

ミナス・ジェライス州の地方都市に住む私達家族も、この激流から逃れることは不可能だった。
フェイスブックで勧誘があったのかどうか、息子も木曜日の夕方、セントロから市役所前まで約2キロの街頭デモに出かけた。
心配と興味半々の母親、つまり私の妻だが、一緒に出かけていったのであるが、息子の故意か偶然か、途中で別れわかれになってしまった。
妻は市役所そばのスーパーマーケットをのぞいたが、混乱を恐れたスーパーは早くもシャッターをおろしてしまって、人気なく暗い駐車場に恐れをなして早々と帰って来てしまった。
息子はもっと遅くなってから何事もなく帰ってきた。

わが町の抗議活動は、市役所のガラスが2,3枚割れたくらいで混乱なく、組織側代表は市長と面会を達して、無事散会したようだ。
それでも息子の話では、建物にスプレーで落書きをしていたグループと、止めようとした平和的行動グループと合わせて5,6人が殴り合いをしていた。
爆竹の音が鳴り止むことはなかったという。
4万人規模のデモだったとニュースで発表された。

2013年6月21日金曜日の報道では、全国100都市以上で総数120万人が抗議活動に参加したという。
サンパウロ市だけで10万人以上が街頭を歩いた。

日本の報道では、ワールドカップ反対デモといわれることがあるが、これは少し違う。
コンフェデレーションズカップの土壇場になって、ようやく新鋭スタジアムが次々に完工するという、連日の熱が高まる報道で、FIFAの求めるスタジアム水準が過剰に豪奢とみたブラジル一般国民が、それだけ金があるのに、民衆が直接受ける教育や保健がなぜよくならないのか、という至極当然な理由からの抗議メッセージだ。
“EDUCAÇÃO PADRÃO FIFA”(FIFA水準の教育を)
“HOSPITAL PADRÃO FIFA”(FIFA水準の病院を)
というプラカードがそれを物語っている。
ワールドカップ反対のビデオを制作発表したブラジル人もいるから、一概には言えないが、大多数はワールドカップ自体に反対してはいない。
ワールドカップも良いが、その前にやることがあるだろ、ということだ。

ここ数年いや数十年来の大規模といわれる、今回の広域抗議デモの特徴といえば、まず、ソーシャルネットワークで結集した、特に活動家でない大学生/高校生などの学生が中心であること、それは、デモのプロの作る横断幕などでなく、手作り即席の紙製プラカードが多いことにみられる。
直近のニュースを見ると、若者だけでなく、その親世代、つまり労働市場の現役から、一線を引退した祖父母世代まで参加者が広がり、明らかに中産階級、バスなど使うことのないような人々も大勢参加している。
「娘がデモに参加すると言い心配になったので、いっそのこと私も参加することにした」と、瀟洒なアパートメントの部屋でプラカードを作りながら、ある母親はインタビューに答えた。
ノリの良いブラジル人の面目躍如である。
ブラジルには勤労学生は多いのだが、全日制大学生の出身家庭は、教育に金をつぎ込むことのできる中流以上が多いのは事実である。

プロテストのメッセージの中心は、公共交通運賃の値上げ反対であったのだが、社会保障や教育、貧困・犯罪対策、汚職追放などテーマが広範囲に拡散したこと、「旗はブラジル国旗のみ」と組織者グループが言うように、政党あるいは労働組合色が薄いことも、今回の抗議活動の特徴だ。
サンパウロ市のデモで赤い政党旗や労働組合旗を掲げたグループが、普通の参加者から日和見主義者(oportunista)とやじを浴びたり、旗を奪われ燃やされたりの小競り合いがあった。
サンパウロ市政と連邦政府は労働者党(PT – Partido dos Trabalhadores)が政権党であるが、PTの旗がデモにみられたのは奇妙なことだった。
日和見となじられるのは当然だ。
Dilma共和国大統領は、自らの所属政党のデモ参加分子の行動に不快感を示したという。

さらに、大多数の平穏なデモ参加者の中に、少数の過激分子や略奪目的のならず者がまぎれ混んで、大多数の穏健な参加者が解散してから、残った過激者が破壊活動に走ったり、商店略奪をどさくさに紛れて犯すケースが多いことがあげられる。
「最初は平和的行進だったが、夜になり残った少数が暴徒化して警察力と衝突した」という報道が多い。
この狼藉だけをみて、暴力に席巻されるブラジルと誤解されたくないので、多様なブラジル社会の表現形であることをここでぜひ強調しておきたい。

2013年6月21日の夜9時、テレビの全チャンネルを専有して、Dilma Rousseff共和国大統領は国民への呼びかけを行った。
内容は次のとおりだった。

民主主義の表現である平和的抗議運動は、いつでも受け入れる姿勢である。
しかし暴力沙汰は、規律を持って対処しなければならない。

コンフェデレーションズカップとワールドカップの資金であるが、融資であり、将来の使用者つまり州や民間が返済するものであり、税金の無駄遣いではない。

要求への返答は次のとおりだった。

  1. 公共交通の諮問機関をつくり、その改良につくす。
  2. 原油採掘のロイヤリティ(採掘者が油田の地元政府あるいは連邦など上位政府に支払う金-現在その分配のやりかた、どれだけ非生産州へ回すかをめぐり国会審議中)を全て教育予算に回す。
  3. 保健については、外国人医師を数千人単位で受け入れて、公共病院で働いてもらう。

2番めと3番めは、国会の立法が必要とニュース解説は言っていた。
病院に行ったら、ポルトガル訛りのポルトガル語や、スペイン語を話す医師に診てもらうことになるのか。
けっこう大胆な対策を打ち出したものだと思う。

PTのDilma政府は、最近まで継続した高支持率にあぐらをかいて、最高裁で有罪判決を受けたPT主体の汚職元議員をかばうような姿勢にみられる、民衆の心が離反するような慢心政治に陥っていたのではないか。

国民の直接選挙で選ばれた、強大な権力を持つ大統領制を敷くブラジルである。
国民の広域な抗議活動が、大統領の言質をとった形になったわけだ。
抗議活動の結果が、良い方向へ向かうことを強く期待する。

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サッカーと抗議デモとどちらが大事?」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: ブラジルの牛の降るまちを | Caiu o mico

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